「oh〜うちの子と同じ泣き声だ おじさんもこのパットを投げ出し、家に帰りたいよ」
1983年、全英オープンが行われたロイヤル・バークデールの最終日でのエピソード、それは15番ホールで聞かれた。 トム・ワトソンら4人のトッププレーヤーが首位に8アンダーで並び、ワトソンはこの15番ホールで、3・5mにつけてバーディを狙うパットの構えに入った。 ギャラリーもかたずを飲み、シーンと静まりかえった中、突然子供の泣き声が・・ 人々が集中して沈黙したのが恐くなったのであろうか、2歳くらいの男の子が突然、泣き出してしまった。 睨みつけられ糾弾されると思った父親はわが子を庇いながらも身をすくめる。しかし、ワトソンはにこっと笑い、そして言ったのがこの言葉である。予想に反してトム・ワトソンは少年にこの言葉をやさしく投げかけたのである。ほっとした空気と陽気な笑い声がギャラリーをつつんだ。 ワトソンはそのパットを外したものの、次の16番でバーディをとり、そのまま逃げ切り5回目の全英オープン優勝を果たしたのである。 トム・ワトソンは温厚篤実、知性の人として知られる。名門スタンフォードを卒業(これが難しい)して、もしプロゴルファーにならなかったら、弁護士になっていたろう。 あの時、ワトソンが怒りまくっていたらどうなったろうか?その怒りで自分の心を壊しはしなかったろうか? あの言葉でギャラリーの中に救われた空気が流れ、子煩悩、温かい家庭を大事にしているであろうワトソンを応援するような雰囲気になったことは確かであった。その場で取材した筆者自身が感じたことである。
◆トム・ワトソン(トーマス・スタジェス・ワトソン)
1949年、米国生まれ。スタンフォード時代は勉学に力をそそいだのか、これといった成績は残していない。71年プロ入りと同時にツアー参加。ツアーでの勝利39。メジャーは全米オープン1勝(82年)、マスターズ2勝(77、81年)、全英オープン5勝(74、77、80、82、83年)計8勝。帝王二クラスを継ぐ新帝王といわれるまでになったが、極度のイップスに襲われ、全米プロはとれず、グランドスラマーにはなっていない。シニア、他の勝利を加えれば55勝をこえる。知性派として知られ、88年にはゴルフ殿堂入りも果たした。
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